英語ゼロで国際シェアハウスに飛び込んだ私が、最初にほっとしたのは「英語が話せた瞬間」ではありませんでした。
言葉が通じなくても、同じ場所で一緒に笑い転げたあの夜——。そこから、外国人ルームメイトとの距離が一気に縮まっていった気がします。
今日は、シェアハウスで私が忘れられない「笑いを共有した夜」の話をさせてください。
最初の頃は「笑顔」だけで必死でした
入居したばかりの頃、私は英語がまったく話せませんでした。
リビングで外国人ルームメイトとすれ違うたびに、返事もろくにできず、ただ笑顔だけで乗り切っていました。「英語がわからないと思われたくない」「でも何も言えない」。そんな気まずさを笑顔で隠していた時期です。
今思えば、あの頃の私にとって「笑顔」は唯一の武器でした。でも、笑顔だけでは会話は生まれません。本当に距離が縮まったのは、もっと違うきっかけからでした。
節分の夜、段ボールの鬼になりました
その年の2月、シェアハウスでは節分パーティーが開かれました。みんなで恵方巻を食べ、雑談が始まった頃——私は静かにダイニングから姿を消しました。
自室で段ボール製の鎧をまとい、スーパーで配っていた鬼のお面をかぶり、2リットルのペットボトルをガムテープで巻いた棍棒を手に持ちます。
相方の日本人ルームメイトとともにダイニングの扉をゆっくり開けると、待っていたのは一斉の歓声でした。
「鬼だー!!」
10人以上のルームメイトが、こちらに向かって個包装のピーナッツや柿の種を投げつけてきます。逃げ回りながらも、私は鬼役を演じ続けました。国籍もバラバラの仲間たちがキャーキャー言いながら子どものように楽しんでいる光景を、お面の下で見つめていました。
アルファベットチョコの痛さに「Wait! Wait!」と叫びました
投げられたおつまみの中には、キャンディ状に結ばれた個包装のアルファベットチョコもありました。
誰かが思いっ切り投げたそのチョコが私の体に「ゴンッ」と当たった瞬間——お面の下で本気で痛かった私は、思わず英語で叫んでいました。
「Wait! Wait!!」
両手をかざしながら静止をお願いする私に、ダイニングは大爆笑です。
あの瞬間、お面をかぶっていた私は「鬼」というキャラクターに完全になりきっていて、言葉の壁や恥ずかしさなんてどこかに行っていました。自然と英語が口から出ていたことに、私自身があとから気づいたくらいです。
大人がこんなに本気で楽しめるのかと思いました
鬼がやられる演技をしてダイニングから退散した後、私は着替えて何食わぬ顔でダイニングに戻ります。
「Uchi、どこに行ってたんだよ〜、鬼が来たよ!」
「えー、そうなの?大変だったね(笑)」
毎年恒例になったこの茶番を、ルームメイトたちはにやにやしながら付き合ってくれました。片付けの時間になると、鬼のコスチュームを着たい人に貸し出して、即席の写真撮影会が始まります。
段ボールのヘルメットをかぶった外国人ルームメイトが「ウォー!」と声を上げ、それを囲んで日本人と海外出身の仲間たちが笑い合っていました。
「大人がこんなに本気で楽しめるものなのか」
そう思ったのを、今でもはっきり覚えています。ちなみに鬼のコスチュームは毎年アップデートしていました。2年目は段ボールで般若風のお面を自作、3年目は龍のような角付きヘルメットと腰プロテクター、4年目は両腕に盾まで追加。年を重ねるごとに、どんどん防御力が上がっていきました(笑)。
ハロウィンは「カオナシ」で砂金を配りました
もうひとつ忘れられないのが、2年目のハロウィンです。
その年、私はジブリ映画『千と千尋の神隠し』の「カオナシ」を自室で自作しました。ジブリ作品なら海外のルームメイトにも伝わるはずだと考えたからです。
当日、管理人さんのお子さんとそのお友達(小学生くらい)もパーティーに来ていました。私は劇中の「砂金をあげるシーン」を再現しようと思い立ち、金色の包装がされたキューブ型チョコレートを用意しました。
「あっ……あっ……」
カオナシのあの独特な声でチョコを差し出すと、子どもたちはちょっと怖がりながらも、嬉しそうに受け取ってくれました。
大人のルームメイトたちにも同じように金色のチョコを配って回ると、笑いながら受け取ってくれる人、自分もカオナシのマネをしてくる人——反応はさまざまでした。
外国人のルームメイトたちも、ゾンビ・魔女・セーラームーンなど、思い思いの仮装で参加していました。お互いの衣装を褒め合ったり、一緒に写真を撮ったり。国籍も年齢もバラバラなのに、その夜のダイニングは同じリズムで笑っていたと思います。
居酒屋で、言葉のミスが笑いに変わりました
もうひとつ、今も思い出すと頬がゆるむエピソードがあります。
みんなで出かけた帰り、居酒屋に寄ったときのことです。そろそろ帰ろうかという頃、日本語がかなり上手なアメリカ出身のルームメイト(ここではトムと呼びます)が、こう言いました。
「じゃあみんな、おけいかいを」
正しくは「お会計(おかいけい)」です。
その場にいた日本人全員で爆笑しました。もちろん、彼の日本語をバカにしたわけではありません。「お会計」という日常単語を知っていること自体すごいですし、何より彼の愛されるキャラクターがあってこそ生まれた笑いでした。
言葉のミスが笑いに変わるのは、お互いのことをすでに知っていて、打ち解けている関係だからこそ起こることだと思います。
笑いを共有したあと、会話は自然に増えていきました
不思議なもので、節分やハロウィン、居酒屋で一緒に笑い合ったあと、ルームメイトとの会話量は確実に増えていきました。
特別なきっかけがあったわけではありません。でも、「あの夜、一緒に笑った人」という記憶が残っていると、次にキッチンで会ったときに自然と声をかけやすくなるんです。
「昨日のパーティー楽しかったね」
「あのチョコ痛かったよ、本当に(笑)」
そういう他愛のない会話が、ぎこちない私の英語でも成立するようになりました。共通の体験を持っていると、多少文法が崩れても相手が意図を汲み取ってくれるからです。
そして「話したい」と思えるようになると、英語を勉強する気持ちのハードルがぐっと下がります。完璧な英語を話したい、ではなく、「あの人ともっと話したい」に気持ちが変わっていく感覚がありました。
まとめ:言葉より先に、笑いが壁を壊してくれます
英語ゼロで国際シェアハウスに飛び込んだ私が実感したのは、言葉より先に「一緒に笑う」があれば、その後の会話はずっと楽になるということでした。
節分の豆まきも、ハロウィンの仮装も、居酒屋での言い間違いも。すべて「英語力」とは直接関係のない場面です。でも、その場を共有したことで、私は外国人ルームメイトとの距離を一気に縮めることができました。
もし今、「英語が話せないから外国人と仲良くなれない」と感じている方がいたら、伝えたいことがあります。
言葉より先に、笑える場所を一緒に持つこと。それだけで十分に、壁は壊れていきます。
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